絵本館というとどんなイメージを持つだろう? 色とりどりの絵本がたくさんあり、幼い子どもが膝に抱かれながら絵本を読んでもらう、そんな姿を思い浮かべるかもしれない。
ここは、まさにそんな想像通りの絵本館だ。親子の微笑ましい光景をあちらこちらで目にすることができる、心温まる空間だ。

空とこども絵本館は、石川県で初めて絵本専門の図書館として2006年に開館した。0歳からの絵本との出会いを推進するために作られた施設で、赤ちゃんが肌のぬくもりを感じながら豊かな心と言葉を育み、家族とともに成長していく、そんな願いが込められている。
建物は、昭和初期に建てられた旧小松警察署の庁舎を、子ども連れファミリーが利用しやすい優しい雰囲気に改装したものだ。登録有形文化財にも指定されている貴重な建物だが、『ぶっくりん』という愛称がつけられ、子どもたちのみならず広く市民にも愛されている。

まず、玄関に入ると靴を脱ぐ。0歳からの利用を想定した施設なので、床はいつもピカピカに磨き上げられ、ホコリひとつ落ちていない。これなら赤ちゃんがハイハイしても安心だ。
中に入ると1階全体がオープンスペースとなっており、気候のいい時は庭の広場に出る窓も大きく開け放たれ、この上なく気持ちいい。
この空間には大型絵本や布絵本、雑誌などが置いてある閲覧コーナーとにぎわい交流ラウンジ、授乳室などがある。子どもたちは自由に動き回り、好きな本を手に取って眺めたり、お父さんやお母さんに読んでもらったり。
また一方では、ボランティアスタッフが声掛けをし、ブックスタートのアドバイスをする姿も。多くのボランティアが、絵本館の運営をサポートしてくれているのだ。
にぎわい交流ラウンジには、流し台や電気ポット、電子レンジ、冷蔵庫などが備え付けられており、飲食可能なスペースとなっている。この場所があるおかげで、離乳食の時間を思い通りに取ることができたり、お弁当を持って行ったりすることができる。

吹き抜けの階段を上がり2階の貸出コーナーヘ向かうと、階段の最上段には鍵付きの転落防止扉が。ここにも子どもに対する配慮が感じられる。
その扉の向こうには12,000冊近く(1階閲覧絵本含む)の絵本が作者名順に並べられており、子どもたちは椅子に腰掛けたり、床にぺちゃんと座り込んだり、寝そべったり。気が向いた場所で思い思いに絵本の世界に入り込んでいる。畳敷きのスペースでは、昔懐かしい紙芝居舞台で紙芝居を読むこともできる。
また、屋外の空の展望広場に出れば空を飛んでいる飛行機を眺めることもできるので、ちょっとした気分転換にオススメだ。

子どもと絵本との接点はいろんな場所にある。図書館はもちろん、家にも絵本はあるし、たまには本屋で立ち読みするのも子どもにとっていい刺激になる。ただ、それぞれの場所には子連れ故の欠点がつきものだし、自宅も籠っていればストレスもたまる。
でも、この絵本館にはそういったウィークポイントが見当たらない。子どもは自分のスタンスで絵本と戯れ、好奇心を満たすことができるだろう。また、お父さんお母さんは安心して子どもを見守ることができるし、他のお父さんお母さんとのつながりを築くこともできるかもしれない。
温かいスタッフに見守られながら、絵本を通して親子ともに成長できる、ここはそんな施設なのだ。

どこまでも優しい施設なのだが、あえて1点だけ不便さを残している。それは、返却ポストがないということだ。
これは、本を返す時に『ありがとう』と言って返す大切さを子どもたちに伝えたいから。それに返却ポストに本を投函すると、本が傷んでしまうからだ。
みんなが使う絵本だから大切に使い、感謝の気持ちとともに返す。そんな小さな心遣いを、幼い子どもたちに伝えてくれる施設だ。